愛i哀

もう随分、長いこと付き合っている恋人がいる。
普通の恋人が言わないだろうという言葉を吐き、ちっとも恋人らしくない私の恋人。
何度も別れようと思う出来事もあったし、腹の底から大嫌いになった時もあったけど今も一緒にいる。

私が不安になるようなことばかりいうし、私をどこまでも傷つけるようなことを言うしすぐに怒る。
けれど、そこまで私を不安にさせ傷つけることをできるのは彼しかいないし、彼をそこまで怒らせることができるのも私しかいないのだ。
こんな書き方をしてしまうと、DV彼氏とマゾっ気のある彼女の末端みたいだがそれとは違う。
彼はとても勉強家だし頭も良い。
私が見てきた中でも1番だし、誰もが認める頭の良さだ。
彼がいう事はほとんどが論理的かつ合理化された正しい意見だ。
たまに、歪んだ欲望がねじ込まれていることもあるが。
彼の助言のおかげで、どれだけのことを私は気がついたのだろうか。
ARTとは芸術とはなんなのか、私はどうやって向き合って行けば良いのか、私に足りないものはなにかだとか…。
私は彼に救われたのだ。
きっと、私は彼と出会わなければ本物の芸術を知ることもなく勘違いも甚だしいものしか作りだすことができないで一生を遂げていたと思う。
そのことについては、本当に感謝しているし頭が上がらない。

それでも、現状は駄目な自分から今だに抜け出せていない。
よく、見捨てずにそばにいてくれると思う。
でも、つい最近までは逆だった。
なんで私はこんな優しくもない人と付き合っているのだろうかと思っていたのだ。
本来なら優しく受け止めてくれることを、彼は容赦無く突き放してくるし恋人だから甘えられるというのがないのがとても辛かった。
でも思い返すと、そういう態度や言動をしても最後にフォローをいれてくれたり少したってから心配して必ず電話をかけてくれた。
その時の言葉は、シャイな彼の精一杯な嘘偽りのない真実の愛の言葉だった。

彼はとても不器用だし恥ずかしがり屋で素直じゃないとこがあるし、人から見たら冷たい人や怖い人という印象をもたれることが多いけど、本当は誰より愛情深い真面目な人だ。
私も人より愛情深いつもりではいたけれど、もしかしたら彼の方が上かもしれない。
彼は人に対して基本的に誰の悪口も言わないし、怒らない。
だけど、私には悪口をいうし怒る。
ただ、私の悪口を人には言わないし人前で怒ることはしない。
最初は、ただ私に甘え切っていえる人がいないから八つ当たりされてるのかと思っていた。
だけど、本当は違った。
私に期待しているから怒るんだって言っていた。
それと同時に、怒らなくなって私の思い描いたような関係になったときには、君に期待しなくなったときだとも言った。
それを聞いたときは勝手に人に期待をするだなんてどこまでいっても身勝手な奴なんだと憤慨したが、よくよく考えると人に興味のない人が私だけにそこまで想ってくれるだなんて、なんてとろけるような甘美な感情なんだと。
これは彼の最大の甘えなのだ。

愛することや恋人について私はよく彼に、普通はこうなんだよとよくぶうたれた。
社会的な幸せ、一般的な恋人の価値観とかに私は縛られすぎていたのかもしれない。
恋人が10組いれば10通りの恋愛があるはずだ。
長く続いているのは、なんだかんだこの関係で幸せだと感じているという結果のあらわれなのかもしれない。
薄々は感じているのだ、私も。
もう普通の恋愛で満足できないということを。